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デリーロ/ボディ・アーティスト
評価:★★★☆☆
訳:上岡伸雄
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
すごく緻密で美しい文体なんだと思う(訳者の力量もあるだろうが)。物語そのものはシンプルだが、言語と時間を正確に描写していくと、詩的にもなり、哲学的にもなっていく。現実的な事件や「ボディ・アーティスト」としての彼女の表現が、軸となる未亡人と少年の心の交流に肉付けしていく。それはある意味で退屈だが、同時にものすごく哀しい。
キャロル/鏡の国のアリス
評価:★★☆☆☆
訳:矢川澄子
出版社:新潮社(新潮文庫)
「不思議の国~」より緻密な構成で、やや大人びたアリスの行動に好感が持てるとはいえ、やはりこのシュールな物語に入り込むのは難しい。自分の感受性が希薄になってしまったのか、それとも物語自体が観念的過ぎるのかわからないが、アリスの冒険になかなか追いつけない。
チャンドラー/ロング・グッドバイ
評価:★★★☆☆
訳:村上春樹
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
丁寧な翻訳のおかげで読み応えのある作品ではあるが、いささか重厚過ぎる感もある。村上が言う巧みな細部の描写も、ある点においては冗長ですらある。ロマンチストなマーロウの語り口に背筋が凍るような気持ち悪さを感じるが、全体的な展開は整然としており、ラストのインパクトも強い。
ピンチョン/競売ナンバー49の叫び
評価:★★☆☆☆
訳:志村正雄
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
回りくどく難解な文体は、物語の骨子を見えにくくする。どこまでが現実で、どこまでが仕組まれたことなのか判然としない。ストーリーの全体像を把握するのは困難だが、それこそがこの作品の狙いでもあり、読者は主人公と共に謎めいた出来事に翻弄されていく。引用・比喩・言語トリックの多用により付された解説を読むだけで疲弊してしまうのは厄介だが、決定的なエンディングのない不思議なラストは、ふわふわとした読後感を与えてくれた。
オースター/ティンブクトゥ
評価:★★★☆☆
訳:柴田元幸
出版社:新潮社(新潮文庫)
「犬」を語り手に持ってくる所がオースターらしい。だが、そこには「犬」そのものの動物的視点はなく、ニュートラルで繊細なオースターの文体というものがあり、物語はリアリスティックな様相を呈す。捉えようによってはハッピーエンドなのだろうが、やはりこれは不幸な話である。しかし、そこに感傷を付け加えないのが、この作品の最も愛すべき仕掛けなのだと思う。