ヴォネガット/タイタンの妖女
評価:
★★★☆☆
訳:浅倉久志
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)
ドタバタと宇宙を駆け巡らされる運命を強制された主人公には同情するが、物語のテーマを顧みるならその同情は自らに跳ね返ってくることになる。たまたまコンスタントという個人が槍玉に上がっただけで、実際には全ての人類が(過去から現在に至るまでのあらゆる歴史が)下らないメッセージのために知らないうちにコントロールされているのだから、なんとも無意味で残酷だ。若いうちに読んでいたら人生観が変わっていただろうと思う。
クリストフ/悪童日記
評価:
★★★☆☆
訳:堀茂樹
出版社:早川書房(ハヤカワepi文庫)
ショッキングな作品だと思う。子供の視点で描かれる日記風物語は、子供らしい無知やイノセンスと共に、性・暴力・差別・戦争・宗教などへのあからさまな疑念や糾弾、あるいは甘受や迎合があり、理性的な彼らの無感情な描写にヒヤリとしてしまう。不可思議なラストは嚥下しきれず、いつまでも双子の幻影に囚われてしまいそうだ。
サリンジャー/ナイン・ストーリーズ
評価:
★★★☆☆
訳:野崎孝
出版社:新潮社(新潮文庫)
正直に言って、この感覚はわからない。文学的なテクニック、根幹となるテーマを緻密に描ききる手腕は確かに素晴らしいが、例えば村上春樹が絶賛するような「小説としての高尚さ」は感じられないし、迫ってこない。どこかキザで嘘臭い物語は、個人的な好みにも合わず、ひたすらうんざりしてしまった。
ヴェルヌ/海底二万里
評価:
★★★☆☆
訳:荒川浩充
出版社:東京創元社(創元SF文庫)
明治時代の作品とは思えないロマンがある。百年が経った現在でも海底の全てはまだ謎のままだ。全体的に優雅な冒険だが(もちろん緊迫感のあるシーンもある)、ネモ船長というミステリアスな存在によって海底がより神秘的に思える。結局彼が何者だったのかは語られず、物語がいつまでも続いていくかのようなラストが効果的。