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昭和初期の日本ですら谷崎が追い求めた「陰翳」が失われつつあるというのに、現代ではもはや何処にも見当たらず、まさに「陰って(翳って)」しまったというのも皮肉な話ではないか。節電ブームの現代において、本質的な解答を示してくれているような気がする。
デリーロ/ボディ・アーティスト
評価:★★★☆☆
訳:上岡伸雄
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
すごく緻密で美しい文体なんだと思う(訳者の力量もあるだろうが)。物語そのものはシンプルだが、言語と時間を正確に描写していくと、詩的にもなり、哲学的にもなっていく。現実的な事件や「ボディ・アーティスト」としての彼女の表現が、軸となる未亡人と少年の心の交流に肉付けしていく。それはある意味で退屈だが、同時にものすごく哀しい。
梶井文学を頽廃文学の一つとして肯定的に規定するか、ただただ病的とするかは其々だが、少なくとも「檸檬」以外の多くの短編には病的な空気感というのが確かにあるように思う。ただ「檸檬」の短編としての文化的価値はやはり計り知れない。いわば短編の「正解」というか、これ以上もこれ以下もない短編としての完成系がそこにある。
真藤順丈/地図男
評価:★★★☆☆
出版社:メディアファクトリー(MF文庫ダ・ヴィンチ)
いくつかの物語内物語のアイデアが素晴らしく、それを包括する「地図男」という概念もまた面白い。ただ分量が少な過ぎて、それぞれのアイデアが勿体無い。それは最終的に「地図男」の背景まで希薄に感じさせてしまう。
万城目学/ホルモー六景
評価:★★★☆☆
出版社:角川書店(角川文庫)
「鴨川ホルモー」のスピンオフ短編集。「ホルモー」という大きなアイデアの土台があるので、下手に小細工せずともそれなりのものはできる、というような印象。ただ、良い方向に捉えるのであれば、あらゆる文学の方法論(ファンタジーでありSFでありミステリーであり……)を駆使したオールラウンドな作家ではある。
関連:万城目学/鴨川ホルモー