森山大道/犬の記憶
評価:
★★☆☆☆
出版社:
河出書房新社(河出文庫)
森山の文章には、彼が撮り続ける写真と同様のパワーと描写と難解さがある。そこに森山の写真家としてのアイデンティティが見えてくる。例え文章であっても、彼が表現しているのはあくまで写真であり、いつだってシャッターを切っているのだ。自分の中で論理的に、あるいは突発的に浮かんだ感情を、今まさに見えている風景に投影して記録する。そのツールが言葉であるか写真であるかの違いしかない。「ふるさと」を持たない森山だからこそ、あらゆる場所が「ふるさと」になる。そこで邂逅した様々な人や風景、そして自分自身の葛藤や衝動についても書かれている。
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森村泰昌/時を駆ける美術
評価:
★★☆☆☆
出版社:
光文社(知恵の森文庫)
衒学や押し付けで構成された評論ではなく、非常にわかりやすい言葉と独自の視点で美術を語っているので好感が持てる。既存の美術の魅力を理解した上で、それをある意味で冒涜している彼らしいユニークな文章だ。例えば、ピカソの「ゲルニカ」を引き合いに出して「良い絵なのか、そうでないのかわからない」とさえ言っている。ピカソを評する上で最も正しい言葉は「わからない」だと思うが、「わかった」素振りをしない森村は潔くて面白い。美術初心者が「美術鑑賞の副読本」として読むものではなく、芸術家の文章に触れることで、今一度「芸術」を考え直すための上級者用のマニュアル本である。
村上龍/恋愛の格差
評価:
★★☆☆☆
出版社:
幻冬舎(幻冬舎文庫)
村上のエッセイが面白いのは、誰もアナウンスしないことをはっきり言ってくれるところだろうか。「変だな」と思うことを、しっかり文章にしてくれる。「経済格差が露呈し始めた現代の日本では、恋愛にも格差が生じてきている」というテーマで書かれたエッセイ集だが、実際は市場経済の社会化、日本語の多様化、人生モデルの消失、マジョリティとマイノリティ、引きこもりやフリーターの現状を暴く中で、個人の生活スタイルが変わってきていて、そのことを多くの人が気付いていない、メディアはアナウンスしない、そのことに危機感を持て、という彼お得意の理論展開が為されているだけだ。個人の生活スタイルが変わってきているということは、同じように恋愛スタイルも変化しているとわざとらしく付け加えることで、辛うじて「恋愛」に関するエッセイとして読めるだろうか。