村上春樹／世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

評価：★★★☆☆
出版社：新潮社（新潮文庫）

春樹の小説はどんなに長い物語でも「短編」の様相を呈す気がする。ファンタジーとして描かれる「世界の終わり」と、ややＳＦ味のある現実「ハードボイルド・ワンダーランド」の二つのエピソードが同時に進行し、実はそれが一つの意識の果てであるというような内容だが、そこには春樹イズムとでも呼ぶべき比喩と感情の欠落がある。主人公や世界観、あるいは作者自身に感応しない限り、示唆的な意味合いを持たなくなり、あまりに優等生な作品であるが故にそれを読解しようという気にさせない。そう感じるのは私だけだろうか。