カーヴァー/Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選
評価:
★★★☆☆
訳:村上春樹
出版社:中央公論社(中公文庫)
良くも悪くも村上春樹の文体になっている。しかし、彼でないとカーヴァーの魅力はここまで表されないだろう。彼の短編には常に不穏な空気が漂っている。それは、登場する人物が無力な人間ばかりだからだろうか。何か決定的に悪いことが起こりそうな予感が生まれ、もちろんそれが裏切られることもあるが、大抵の場合はその悪い予感の通りに物語は進んでいく。ただ、それが「悪い」ままで終わるわけではなく、より深い意味での「運命のどうしようもなさ」みたいなものが見えてくる。主人公たちは必ず何か大切なものを失うが、そこで喪失の悲しみや辛さを具体的に描くわけではなく、喪失の本質のみを描いているように感じる。
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