ジョイス/ダブリン市民
評価:
★★★☆☆
訳:安藤一郎
出版社:新潮社(新潮文庫)
ダブリンに生きる市民の生活を描き、そこから人間社会の停滞を顕示していく短編集。究極的な自然主義文学という感じがする。物語は何かを「予感」させて、それが実際に始まる前に終わってしまう。市民階層が抱える麻痺や無気力は、恋愛・人生・宗教・政治などに及び、あらゆるものが完結しない。最後に収められている「死せる人々」の完成度は、他に類を見ないほどで、無情だ。読後に残るやりきれなさは、決して哀しさを伴うことなく、ただ淡々と読者を圧し続けるようだ。
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