フォークナー/八月の光
評価:
★★★☆☆
訳:加島祥造
出版社:新潮社(新潮文庫)
完成された世界観があり、すっかり引き込まれてしまった。たった数日の出来事を描いた作品だが、主要な登場人物達の背景が丹念に描かれているため、非常に長い物語になっている。しかし、幾つもの視点で切り取られる重層な語りが、一つの事件に多様な側面を付け加え、常に一定の緊張感を持たせている。黒人の血を持つ殺人者・クリスマスの悲惨な末路が主題なのではなく、一人の無垢な(あるいは全てを見透かしたかのような)若い母親の牧歌的な旅にこそ「八月の光」があるのだと思う。
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