坂口安吾／桜の森の満開の下

評価：★★★☆☆
出版社：講談社（講談社文芸文庫）

安吾の小説は俗世間的でリアルなイメージを持っていたが、ここに収録されている物語にはあまり肉薄した現実感がない。表題作「桜の森の満開の下」はファンタジー・ミステリーだと言えるし、「夜長姫と耳男」は童話的サスペンスのように読める。歴史や民俗学を主題にした作品も多く、安吾の真髄は「人間を見る洞察力」と「最もらしいアレンジメント」なのだと気付く。それはまさに小説家としての特異なまでの才能であり、安吾の魅力そのものなのである。